2008/11/05

今日の本

『車のいろは空のいろ』 

        あまん きみこ著


空いろタクシーの運転手・松井さんが覗いた不思議な体験を
8作の短編にまとめたもの。
お客も人間の子どもに化けた子ぎつねの兄弟や山ねこ・ちょうちょと
ユニーク。
ファンタジックなのだけれど、甘過ぎないのがまた良い。


中でも特に気に入った話について。

「すずかけ通り3丁目」 

すずかけ通り3丁目へ、と乗り込んだ女性客。
耳慣れない通りだったので、松井さんは道の指示を頼んだ。
車を走らせていくうち、ビル街だった筈のそこに、
スズカケ並木の続く赤やみどりの屋根がならぶ。
一軒の家に停まると一旦車を待たせて、今度は駅まで乗っていった。
お金を払う手を見てはっとなる。

40歳くらいの色白の女性だった筈が、今目の前にいるのは
どうみても60過ぎのおばあさんである。
さっき向かった場所は戦前住んでいた家だったのだ。
そして今日は死んだ息子の命日。

何年経っても亡くした息子は3歳のままで、
自分もまた当時の年齢でいる気がするのですよ、と云っておばあさんは去る。
ありがちな話だとおばあさんもすでに死んだ人だったとか、
或いは車中で消えて終わるのだけど、
この作品ではちゃんと生きている。
おばあさんの思い出の世界に、
松井さんもふっと足を踏み入れてしまったんだな。


戦争の傷が今なお癒えないおばあさんの心情が、
おはなしの幻想的な雰囲気と相俟ってとても美しい。



2 件のコメント:

0次郎 さんのコメント...

まずはブログ開設おめでとうございます!
しかもその一発目が『神田・古本まつり』。
らしいと言うか(笑)

たまたま見ていたTVのニュースで
その模様がレポートされており、
にぎわいの一端をかいま見ましたが、
やはり直に空気を味わってナンボでしょうね。。

ブログ、これからも楽しみにしていますね。

もぐら さんのコメント...

やっとこコメントの表示の仕方が
わかりました…
永らく眠らせていて 失礼しました。
また 気が向いたら何か書いてくれると
うれしいです。